(コメンTOMO2007年8月21日)
【No.76】

参院選の結果と障害者自立支援法

■我慢がならなかった自立支援法

 参院選の結果は、実に痛快だった。障害のある人びととその関係者にとって、これほど注目と関心を集めた参院選はなかったのではなかろうか。投票所に足を運んだ障害関係者は、群を抜いて過去最高だったように思う。障害当事者やその親族、加えて障害分野に携わる者を含めれば、障害関連が保有する票は相当な威力になるはずである。
  ちなみに、「痛快だった」と言うのは、単純に民主党が大勝したことを意味しているのではない。あの障害者自立支援法を成立させた与党が大きく負けたことが心の底から良かったということである。普段であれば与党を支持していた者も、「自立支援法だけは我慢がならない」とばかり、今回については民主党をはじめとした野党に一票を投じた者も少なくないように思う。選挙前からも予想されていたが、与党大敗の主因が年金の記録問題や格差問題への反発などにあったことは間違いなさそうであるが、これらとも深く関係しながら、我が障害関係者の投票行動も与党の大敗に少なからず影響を及ぼしたといってよかろう。選挙の総括が報じられている与党であるが、障害関係者の投票行動についてもしっかりと受け止めてほしいものだ。

■与野党で新たな動き

 さて、問題は自立支援法のゆくえである。与党、野党のそれぞれにおいて、具体的な動きがみられる。とくに目立つのが、参院の第一党となった民主党の対応ぶりだ。選挙結果が明らかになったその週の後半(8月3日)には、日本障害フォーラムを構成する12団体に「障害者自立支援法の見直し」について意見を求めたい旨の声がかかった。この意見交換会は8月8日に開催され(10団体参加)、民主党側から「障害者自立支援法の見直しについては、民主党としての優先案件としたい。既に提出してきた改正案を補強し、秋の臨時国会には新たな改正案を再提出したい」、こんな意向が示された。こうした動きを意識するかのように、与党からも相次いで各団体に召集がかかった。まず公明党は8月10日の午前中に、いわゆる「障害8団体」(ただし全家連が消滅したために、これに代わる形で全国精神保健福祉会連合会が出席)、自民党もその日の午後に「障害関連友好団体」(10団体が出席)を集め、それぞれ意見交換が行なわれた。団体側の意見で共通していたのは、自立支援法の成立促進で動いた団体を含めて、「利用者負担や事業所への日額払い方式を中心に、自立支援法は問題があり過ぎる」というものだった。

■ポイントは応益問題と運営費支払い方式

 現時点ではなお不透明だが、参院選の結果が自立支援法にも何らかの変化を及ぼしそうだ。問題は変化がどの程度になるのかということだ。厄介なのは既に法が施行され1年5ヵ月が経ち、市町村のみならず個々の事業体を含め、すっかり新法モードに浸っているということである。即座に新法前夜に戻すというのは容易ではなく、またすべてを元に戻せばいいというものでもない。同時に、これ以上の混乱や不安も避けなければならない。もちろん、できる限り早い時期に抜本的な見直し(出直しと言った方がいいのかもしれない)が図られなければならないが、ただしそれにはある程度の準備が必要である。基礎データの集積や国際的な資料収集、当事者参画のじっくりとした審議など、今度こそは拙速は許されない。それなりの時間をかける必要があろう。となると、今回の改正点はどこにポイントを置くのかということになる。その答はそれほど難しくなく、障害団体間でも一致できるように思う。つまり、緊急の改正点は、1,応益負担制度の撤廃、2,事業体への運営費の支払い方式を月額払いに戻すこと、この二点に絞ってもいいのではなかろうか。

■どう対処する与党

 とは言え、そうたやすく運ぶとは思えない。今あげた二点の改正点は、言わば自立支援法の真髄に当たり、当然ながら厚労省の強力な抵抗が予想される。メンツをかけて反発してくるにちがいない。与党だって、強行的な採決をしてまで成立に固執したわけで、政党としての一貫性という観点からも簡単に民主党の改正案に従うかどうかは分からない。ただ、どんなに遅くとも次の衆院選まで2年を割っており、参院選の結果を目の当たりにしている衆院議員としてはヘタな対応は許されない。つまり、メンツに執念を燃やす厚生官僚と足元がグラつき始めた与党とでは、対処の仕方に差異が生じるというのが実際のところだろう。現実にも、先の参院選を前にして与党議員の多くが(衆参を問わず)、自立支援法について大抵の国会議員は「元々個人的には賛成していなかった」とか「問題点がはっきりしてきた以上、改正が必要だ」、「来年の定時見直しにあたっては、大幅な修正が必要」、こう言ってはばからなかった。

■改正案の審議予測

 ところで、自立支援法の改正案をめぐる今後の動きについてであるが、想定できる範囲で記してみたい。まずは、参院選において自立支援法の抜本的な見直しを公約としてきた民主党の主導で改正案づくりが進められることになろう。改正案の主要な要素は、先に掲げた1,応益負担制度の凍結、2,事業体運営費の支払い方式の見直し(月額払いへ戻す方向で)、とされ民主党自身が先の国会まで出し続けていた改正案にさらに手直しが加えられることになろう(これまでの改正案は応益負担凍結が主柱となっていた)。この新たな改正案づくりの過程で他の野党(共産党、社民党、国民新党など)との調整が図られそうだ。既に報道されているように、9月上旬には臨時国会が開催される見込みで、その冒頭で参院に改正案が上程されることになろう。自立支援法をめぐる今後の動きの中で、最大のポイントになるのが、この「参院提出」であり、つまり参院先議で改正作業が進められていくということである。参院で民主党が第一党になったこと、野党が大差で参院の過半数を制したこと、これらがこうした状況を生んだのである。改正案の参院通過は必至の情勢であるが、問題は衆院に送られた後の展開である。前述したように、複雑な心境にある与党の衆院議員ではあるが、何しろ圧倒的な多数を握っているだけに、また厚労省の抵抗を含めて楽観は禁物である。衆院での審議入りと前後して、与党とはもちろんのこと、厚労省側とも突っ込んだ調整や駆け引きが繰りひろげられることになろう。このへんになると、どうなるかは現時点では読みづらい。

■運動があっての立法府

 いずれにしても、参院選の結果がもたらす威力はかなりのものだ。おそらくは、今秋の臨時国会を舞台とした応急処置的な対応と、来年の国会での「三年後見直し」を睨んでの対応とに区分けしての動きになりそうだ。障害のある人びとと各種の支援事業者を苦しめている自立支援法であり、とにもかくにも応急処置的な対応については今秋の国会で決着をつけてほしい。ただし、ここで注意しなければならないことがある。それは、選挙結果を過大評価したり、立法府に委ねればいいという考え方を戒めることである。立法府もマスコミも、当事者の反応が最も気になるはずである。とくに、当事者による「まとまった思い」「まとまった行動」、これらが重要な意味を持つことになろう。具体的にどうすればいいのかということであるが、まず一つ目は自立支援法と国会議員との関係について注目しているということを地元議員に伝えることである。できれば9月中旬までをメドに直に会うか、少なくとも手紙(FAXやメールを含めて)では要請してほしい。与党議員は言うに及ばず、民主党の議員とは言え障害分野に関しては相当な温度差が考えられ、丁寧なアプローチが求められる。二つ目は、中央ならびに地方、地域での自立支援法に関する障害団体の存在感を示すことである。気の早い人からは「今年の10・31はどうするんですか」などの声がある。中央、そして地方・地域でこの秋の効果的な運動をどう創り上げていくか、団体の連携と知恵が問われることになる。これら以外にも、自立支援法の問題を司法の場に持ち込むという動きや改めて学習会を準備したいなどがあるが、どの道、運動なくしてまともな改正はあり得ないということを関係者一人ひとりがしっかりと肝に銘ずべきであろう。

■求められる質の高い連携

 最後になるが、障害関連団体の連携について付言しておきたい。結論から言えば、特に今秋の応急処置的な改正に当たっては、しっかりと団体が手を携えなければならないということである。本質がすっかり露呈した自立支援法であり、もうだまされてはならない。自立支援法の成立時の対応がどうであったにせよ、そこだけにこだわっていたのでは本物の連携など築き得るはずがない。また、地方によっては一旦連携を解消しているところもみられる。ここは今一度奮起して連携の輪を作り直すべきである。連携は、ひとえに連携しようとする双方の誠実さと寛大さ、そして目標の確かさということになろう。これまでにも増して重要な意味を持つ今年の“秋の陣”である。そして、この“秋の陣”は障害分野を拓くための新たな跳躍台になるかもしれない。私たち自身の誠実さと寛大さも、これまで以上に問われることになろう。

(TOMO太郎)

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