2007年3月20日

「神戸東労働基準監督署による
小規模作業所への改善指導」(報道)
に関する見解

きょうされん理事長  西村 直

 2月19日付読売新聞にて、神戸東労働基準監督署(以下、神戸東労基署)が市内小規模作業所の利用者の労働実態が労働基準法や最低賃金法等に抵触している可能性があり、その改善指導を検討している旨が報道された。1951(昭和26)年に発出された「授産事業に対する労働基準法等の適用除外について」通知に照らして、作業収入からの工賃支払いの方法や作業従事のあり方等の実態がこれに逸脱しているというものである。
  この件に関するきょうされん常任理事会の現時点での見解は以下のとおりである。

 第1は、神戸東労基署の改善指導そのものへの疑問であり、強い的外れ感を覚えるものである。障害のある人びとの労働施策をめぐって、雇用部署(旧労働省)と福祉部署(旧厚生省)との連携の不十分さについては以前から指摘されていたところであるが、今般の神戸東労基署の対処はこのことを露呈するものである。授産施設や小規模作業所での工賃が最低賃金を下回っているという事実は、福祉部署においては自明のことであり、なぜ厚生労働省全体としてこうした事実認識が共有できていないのか、統一的な対処方針になっていないのか、不思議でならない。また、半世紀以上も前の通知を振りかざすというのも、いかにも時代錯誤的な対応である。通知を作成した当時と現在とでは、授産施設等をめぐる環境が変貌していることは誰の目からも明らかであり、通知を放置してきたことそれ自体が重大な不作為と言えよう。

  第2は、一方で「1951年通知」に納まればそれで事足りる、すなわち通知の解釈によって公然と最低賃金を割っても構わないと言うのも余りに情けない話である。報道されたような、一定の労働能力がありながら「時給100円、年収25万円」といった状態を放置・許容することは、障害者権利条約(第27条を中心に)やILO159号条約(雇用・職業リハビリテーション関連)の精神に背くものであり、障害ゆえの労働能力の不足を本人の責任に帰するという考え方以外の何ものでもない。

 以上、労働行政の的外れ的な対処ならびに通知解釈をもって低賃金を容認しようとする考え方、大きくこの二点を問題視してきた。ある面ではいい機会である。この機に、障害のある人びとの労働保障をめぐる政策上の立ち遅れと歪みを直視し、思い切った是正への道すじをつけるべきである。問題を打開していくための基本的な考え方として、次の二点を提言したい。

  一つ目は、欧州諸国で多用されている「保護雇用制度」の導入を真剣に検討することである。「保護雇用制度」とは、雇用部署と福祉部署の有機的な連携を前提に、具体的には@賃金補填、A就労場面(通勤含む)での人的な支援体制、B医療支援(通院の有給)、C良質な仕事の優先確保などを基本に据えた就労制度である。つまり、障害ゆえの労働能力の不足を政策的に補完し、働く意思がある者に対して、原則的に「労働者」の位置を確保しようというものである。障害の状態やニーズに応じて、競争的な労働市場以外の形態(「福祉工場タイプ」など)も準備されなければならない。むろん、雇用形態は「正規雇用」を原則とするものである(パートタイム形態の雇用率参入は慎重に検討すべき)。「保護雇用制度」に関しては、既に厚生労働科学研究「障害者(児)の地域移行に関連させた身体障害・知的障害関係施設の機能の体系的なあり方に関する研究」の「作業施設(福祉的就労)共同研究グループ2004年度研究報告書」(2005年3月)においても、「日本版保護(社会支援)雇用制度」として提唱されているものである。

  二つ目は、障害の重い人びとを対象とした本格的な通所型制度を創設することである。欧州では「デイアクティビティセンター」などと呼称されているもので、わが国の障害者自立支援法に基づく「生活介護事業」や「地域活動支援センター」とは非なるものである。就労関連資源の機能を特化していくためにも、並行して障害の重い人びとのための安定した社会資源の整備を急ぐべきである。制度の質的な側面もさることながら、わけても量的な側面が肝要となる。

  とくに、「保護雇用制度」の導入については、わが国においてはハードルの高い課題かもしれない。就労関連団体のみならず、きょうされん会員からもさまざまな意見が予想される。しかし、国際的な実践を通しての成果からみて、また政策原理的にもその方向性は妥当なものと確信する。折しも厚労省において、障害のある人びとの雇用就労政策について新たな政策検討にある今、「保護雇用制度」が論議の俎上にあがることを強く期待したい。

  なお、報道された事象は小規模作業所のみではなく、授産施設に共通して問われるものであり、今後の対応に当たっても関連団体の連携を図っていきたい。また、30年余にわたって「小規模作業所問題」を放置し続けてきた国の責任についても、それがいかに重大なものであるか、ここに改めてこの点を指摘しておく。

  最後に、今般の一連の報道の背景には、「障害団体と行政の関係の不適切さ」も取り沙汰されている。これについては、事実関係を把握したうえで、機会をあらためて見解等を示していきたい。

連絡先  きょうされん(事務局長 多田 薫)
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    TEL 03-5385-2223、FAX 03-5385-2299



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